ぽぉちゃんアイドル街道

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奇跡ってあるみたい

競馬の話です。書き残しておかなきゃ、と思ったので…。

 

最近の趣味のひとつが競馬。もともと馬は好きで、走る馬を見るのも楽しいとは思っていたのだけれど、競馬と言われると賭け事のイメージが強い上になんかいろいろと覚えることが多そうだしでなかなか踏み切れずにいた。

すこし前、今や説明不要なほどのブームを引き起こしたアプリゲーム、ウマ娘にハマった。ウマ娘はよくできたゲームで、キャラのシナリオは実際の競走馬の歩んだ馬生を忠実に再現しているし、これをやるだけで馬券の種類や買い方以外のことはたいてい覚えることができた。実際に競馬の中継をテレビ見てみようと思うまで時間はかからなかった。その馬券も100円から楽しめ、応援したい馬の単勝を買うだけでじゅうぶんに楽しかったのでウマ娘から流れるように競馬にハマる。ウマ娘のほうはガチャの渋さやキャラ追加の遅さに不満を抱えはじめ最近ではろくにログインしていないけれど、競馬の中継は毎週見る。

 

好きな競走馬がいる。マカヒキだ。2016年のダービー馬だ。ウマ娘から競馬にハマった新参者のわたしがいちばん好きな馬がマカヒキ。実はマカヒキが勝った2016年の弥生賞をリアルタイムで見ている。めちゃくちゃやさぐれていた時期のことだった。たまたまつけたテレビで弥生賞をやっていて、馬は好きだからぼーっと見ていた。マカヒキははるか後方でレースを進めていて、無知だったわたしは後ろにいる馬に勝ち目はないものと思い込んでいた。それがどうだろう、4コーナーを曲がると後方の馬たちも一斉にスパートをかけはじめ、スタート直後にはいちばん後ろにいたマカヒキがゴール手前で先頭の馬を捉えて勝ってしまったのだ。

馬それぞれに脚質があることなんて知らなかった。もう勝てそうにないのに走らされてかわいそう、と思いながら見ていたやさぐれたわたしの目に、マカヒキの走りはとてもとても鮮烈に写った。馬は好き、だけど競馬はよく分からない。でも好きな競走馬はいるよ、マカヒキの名前だけは知ってる。そんな状態が5年続いた。家族が野球にえらくハマっていた時期だったので、その後は野球のデイゲームと放送時間が被りがちな競馬を見たいとなかなか言い出すことができず、このときは競馬にハマるまでにはならなかった。だけどマカヒキの名前を忘れることはなかった。

 

初めて見ようと思って競馬の中継を見たのが、レイパパレが勝った雨の中の大阪杯。初めてお金を賭けたのが、さくらの女王ソダシが誕生した桜花賞。夏競馬はときどき賭ける程度に抑えつつ、秋競馬が始まってわくわくしていた矢先のことだった。

 

またマカヒキが走る。

マカヒキはもう8歳になる。競走馬としては高齢だ。まともに競馬を見始めてからは、天皇賞(春)に出走している。ウマ娘を通して、競走馬の怪我の怖さを知った。マカヒキ弥生賞のあとどういう経歴を歩んできたかも知った。普段は100円しか賭けないけれど、マカヒキには単勝で1000円賭けることにしている。無事に走りきってほしいという願いを込めて。勝てなくてもいいから無事に、と言いながら、心の奥には勝てないまま引退するんだろうな、という思いがあった。天皇賞はたいした見せ場のないまま8着だったし。もう終わった馬だ、最弱のダービー馬だと世間では散々な言われようだったけれど、それでもいちばん好きな競走馬は間違いなくマカヒキだ。

 

10月10日、マカヒキが出走する京都大賞典当日、わたしは北海道にいた。(今も札幌でこれを書いている。)2年ぶりに祖母に会いに来ていて、ものすごくバタバタしていた。馬券だけは買ってあって、もう高齢のマカヒキはいつが引退レースになってしまうか分からないから、できれば見たいと思いながら宿泊する部屋に着いたのは15時35分ちょうど。荷解きもせずに急いでテレビを着けた。もうレースは始まっていた。

4コーナーを曲がると4年ぶりの勝利を狙うキセキが先頭に立ち、それを負うように復活に賭けるアリストテレスがスパートをかけ並びかけてくる。実況は二頭の名前を交互に呼ぶ。アリストテレスがキセキを交わした更にその外から、一頭の馬が突然現れた。マカヒキだった。猛烈な勢いで突っ込んできたマカヒキアリストテレスをハナ差で交してゴール板を駆け抜ける。

信じられなかった。頑張って走っていたけれど、直線で抜け出そうとしたところ進路が無くなったりしていたように見えて、よくて3着かもと思ったのだ。3着いける、3着いける!と口の中で呟いていた瞬間にぐんっと伸びた。マカヒキを好きになった日のことを思い出した。フランスのニエル賞から勝ちのないマカヒキ。日本でのレースはダービー以来、5年も勝ちがなかった。頑張って走ってほしいと応援しながら、もう勝つことなんてないんだと諦めていた。

勝っちゃった。勝っちゃったよ。めちゃくちゃに泣いた。荷解きの手伝いをなんにもできなくなるくらい泣いた。感動を覚えた人がたくさんいたレースだった。馬券に関係なく、たくさんの人がマカヒキの勝ちを喜んだ。わたしの1000円は3万円になり、おばあちゃんにお寿司を奢ることができた。

 

マカヒキのオーナーはひどいなぁ、と思ったりもしていた。勝てないながらも堅実な成果を残してきたマカヒキは、コツコツと賞金を稼いでいたらしいから。賞金を稼げる限りは走らせて使い潰す気なのかな、と。歳のわりに馬体が若々しいのは、レースで荒い使い方をされずにきちんとケアされてきたからだ、というのを知ったのは京都大賞典のあとだった。レースのタイムそのものも3歳のときから大きく衰えてはおらず、強者が集うG1では難しくとも、G2ではじゅうぶんに勝ちを狙えるだけの実力があった、とマカヒキの勝ちを冷静に分析する人もいた。勝てなくてもいいから走らせていたんじゃなくて、マカヒキに携わる多くの人たちもきっと、ダービー馬の復活を望んでいたんだと分かってまた泣いた。 

強い強いと持て囃された3歳時から勝ちが無く、世間での評価は散々ながらも走り続けたマカヒキ。負けが続く中、サラブレッドのマカヒキが何を考えていたかなんて分からないけれど、多くの凡人は自分の姿と重ねてしまうのである。今は成果が出なくても、コツコツと重ねた努力はいつか花開く。諦めなければ、いつか。見る者に希望をくれる走りだった。そんなマカヒキが大好きだ。

 

マカヒキの次走はジャパンカップだそうだ。また応援する。マカヒキの勝ちを願って1000円賭ける。いちばん最初にゴール板を駆け抜けてくることを願って。